極める(How to master a recipe)
🍋 レモンパイを作るための道具たち
長いブランクのあと、11月以降レモンパイを4回も作った。
小麦粉を変えてみたり、パイ皮の焼き具合を変えたり、トッピングの形を変えたり、パイ皿をアルミホイルのものにしたり(人様に差し上げる時、お皿を返していただかなくてすむように)、毎回小さな工夫を重ねながら・・・。
母がよく言っていた。「貴方たちが小さい頃、中国料理を習っていた時、言われたわ。お母さんのレシピは僕たちの犠牲の上に出来上がったんだよね、と」
???
母が習って来た料理を作ると「まあまあ」の出来では、満足せず、忘れないうちにと翌日も、時には翌々日も、何度も同じ料理を作っていた。つまり、子供たちは続けて何度も同じ料理を食べさせられたというわけだ。
今、母のその姿を思い出し、娘も似ているところがあるなあと苦笑している。母のエッセイを紹介する。
🍋🍋 私はパイ職人になりたい
夜中に起きてパイ用の小麦粉をこね、今冷蔵庫に入れたところ。このまま数時間乃至は一晩寝かして、パイ独特の動作、たたみ込みをする。
今、私は「職人」という言葉を思い返している。30年前、夫が青年海外協力隊のために書いた『ボランティア・スピリット』と題した本に出て来る言葉で、ここ数年好きな言葉として私の心の中にある。
織の職人にしても、染の職人にしても会心の作というのは一生を通じてそんなに何遍もあることではなかろう。恐らくもう一歩、もう一歩とその技の奥義を極めるために生涯をかけることであろう。
私が「パイ職人になろう」と決心したのは、昨年夫の病状がまだそんなに悪い頃ではなかったように思う。しかし 日々の生活があまりにも辛かったから思いついたことだろう。
どこへ出しても恥ずかしくないパイを作りたい。それはこの世の中にざらにあるものであってはならない。そうだ。パイ作りに専念しよう。私には40年の歴史があるのだもの。今がパイ作りには最高の季節。今をはずして何時? 年齢的にも老いは確実に迫ってきているのだ。
私は何かにつかれたような思いで、九月の末から殆ど毎日粉と向かい合っている。少々おこがましい話であるが、昨日の出来ばえなどはもう殆ど完成に近く、「私もとうとうここまでやってきたのか」という思いであった。
夫は私のレモンパイを好んで食べてくれた。程よく焦げ目がついて焼き上がったばかりのレモンパイを見て、「ほー」と一言、さも嬉しそうな顔をしてくれた。さくさくとした皮、冷たいレモンのカスタード、上にかかった少し暖かいメレンゲ、その三つが口の中でとける。夫は何時も立て続けに2切れも食べてくれた。あの満足げな顔は忘れることができない。
自分はペロッとお先に食べた後、来客が話しに夢中になってなかなか口をつけないのを見て、「・・・さん。食べてみて下さいよ。 結構いけますから」と恥ずかしそうな顔をして、お客様に勧めていた表情が懐かしく思い出される。夫はとてもそんなことをいう人ではなかったが、余程我が家のパイには自信があったのであろう。そして、それは間接的に私への最高の賛辞でもあったように思う。
私の生涯は三人の子供を育てることと、充分ではなかったが、伴正一という風変わりな一人の人間を支える日々であったように思う。精一杯生きた73年であった。その夫が逝って早や半年近くになろうとしている。
🍋🍋 このコラムを書いている時、「グレーテルのかまど」というTV番組で栗原はるみのシフォンケーキを紹介していた。マスターするまで、毎日、毎日焼いていて、雑誌の撮影に来るスタッフに仕事を始める前に振舞っていたという。なんと、1万回は作ったそうだ。繰り返す→振る舞う、この二つが大切だと強調していたのが印象深かった。そうか、母はプロと同じことを実行していたのですね。
🍋一晩ねかしたパイ皮を翌日「たたみ込み」、更に半日置いてからパイの形に広げ、オーブンで焼く。
🍋レモンカスタードを作り、流し込む。
🍋卵白を泡立ててメレンゲを作り、雪山のように飾る。
🍋パイ作りは作業が何段階にも分かれていて、時間もかかります。
🍋出来上がり!(今年の第1作)
🍋出来上がり!(第3作)少しこんがり焼きました。
🍋どのお皿でいただきましょうか。
🍋応用編ーレモンパイの皮と同じものでアップルパイも作ってみました。
高知 NOW
12月1日、日曜市の対面
はりまやアンサンブル(旧Water Base)
リンク:
💛 母のレシピ① レモンパイ
💛 母のレシピ㉒ アップルパイ(初冬の香り)