土佐弁のチカラ(The charm of Tosa dialect)
たっすいがはいかん!
朝ドラ『あんぱん』を見ていらっしゃる方々にはすっかり馴染みの土佐弁だと思います。主人公の柳井崇はこれまで自身も認める「たっすい」男として描かれてきました。「たっすい」は人物の場合、弱々しい、頼りない、意気地なしなどといった意味です。ドラマでは作り手がまるで面白がっているかのように、「たっすい」が繰り返され、私も思わずニンマリしています。
さて、この「たっすい」が広まったのは、キリンの高知支店がラガービールのキャッチコピーとして使い始めてからかもしれません。もう30年近く前のことです。「(ビールはキレがなくちゃ)、気が抜けているようなのはダメ!」というわけです。上記写真は有名な観光スポット「ひろめ市」の入り口にかかっている広告ですが、居酒屋などでもよく見かけるポスターです。
前にも触れましたが、『あんぱん』は土佐弁を標準語とうまくバランスを取りながら効果的に使っています。「たまるか」、「こじゃんと」、「まっこと」、「ほいたらね」、などなど県外の方も覚えてくださったのではないでしょうか。
龍馬の「~ぜよ」はあまり聞かれず、「~ちゅう」、「~やき」、「~が」、などがよく使われています。唯一私が耳慣れなかったのは「~にゃあ」です。高知で育っておらず、「ネイティブ」でないからかもしれません。
土佐弁は好評で、県外の人からも「土佐弁ってかわいいね」などと言われるそうです。私はドラマの土佐弁を聞いて「心がぬっくう」(あったかく)なります。崇の伯父寛の名セリフなど、土佐弁だからこそ、やさしく、深く心に響いてきたのではないでしょうか。その他、主人公ののぶはもちろん、釜じい、母親の波多子、妹の蘭子らの土佐弁も素晴らしいです!
ところで、私が一番好きな土佐弁は「ありがとう」(「とう」の語尾を強く言う)です。
2005年に高知新聞に連載をした「故郷で世界に生きる」の最後を次の文で締めくくっています。
「最後にもう一度お礼を申し上げたいのですが、私は土佐弁の「ありがとう」(「とう」の語尾を強く言う)の響きが大好きです。「ありがとう(「とう」にるびをふる)」と申し上げてお別れしたいと思います」
もう一つ、「みてる」という土佐弁。
「寿命が尽きる」という意味です。「満てる」という漢字から来ているのでしょうか。人生十分に満ちて全うしたという意味で、「天寿を全うする」と言い変えてもいいのかもしれまんが、「みてる」の方が気負わず、死をより穏やかに自然現象の一部として受け入れているような気がします。
『あんぱん』では、多くの人物の死が大切に描かれています。のぶの父親、妹蘭子の恋人豪、崇の伯父寛、弟千尋 友人岩男、のぶの夫次郎、そして先週はのぶの祖父釜じいが孫娘たちの歌う「よさこい」の中で「みて」ました。釜じいの素晴らしいエンディングだったと思います。
やがて死ぬ けしきは見えず 蝉の声 (松尾芭蕉)
私も釜じいのように「みてる」ことが出来たらいいなあ。
やっと鳴き出した蝉の声に耳を傾けながら、この、昨年に負けぬ猛暑に耐えている76歳の老女であります。
リンク:
🌻 朝ドラ『あんぱん』に見る食卓の風景
🌻 故郷で世界に生きる(高知新聞連載2005)
🌻 好きな言葉