【立秋】


松永美代子さんから送られてきた夏のワンショット


2019年の11月中旬、左下肢が突然麻痺し転倒、夜嘔吐が続き、翌日救急車で病院に運ばれた。2つ目の病院で「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」という難病にかかっていることが判明した。1ヶ月余り入院した折に書いた文章が出てきたので、掲載したい。

古希に体験した入院 

令和元年12月15日

この度の入院体験を通じ、大袈裟だが、現代医療について感じたことを記しておきたい。

1. 医師
医師は様々な検査結果を基にほとんど「データ」で病状を把握する。生身の患者に触れたり、患者に時間をかけて病状を語らせるゆとりは余りないようだ。(私の場合は主治医と十分コミュニケーションが取れていると思っているが。)

時々廊下を通るが、患者を診ている医師の姿よりスタッフ・ステーションでパソコンに向かって真剣に仕事をされている姿を見かけることの方が多い。極端なことを言えば、現代医療は医師が患者と離れていてもパソコンを通じて診断・治療が行えるのではないか、と思うほどだ。

2. 医師を支える医療チーム
看護師、薬剤師、管理栄養士、各種検査要員、退院支援担当者等々実に様々な職種の人たちが医師を支えて患者をケアする。

ここでもパソコンが重要な役割を果たしている。患者の手首にバーコードの腕輪がはめられた時は驚いたが、大切な薬の配付や配膳の折には名前の確認が口頭で行われるだけでなく、バーコードでもダブルチェックされる。

担当者間の分担と連携は素晴らしいものだが、やはり100%という訳にはいかず、患者自身も要所要所で確認を行う必要があると感じた。

3. 病気を治す
私の場合は手術ではなく薬投与+副作用のチェックを繰り返しながら体の痛みを止め、治療を行っている。メインのステロイド(副腎皮質ホルモン剤)を多量に投入しながら多種の薬が併用されるが(ほとんどは予防のため)、人間が本来持っている自己回復力、免疫力が十二分に引き出されているかは疑問が残るところだ。

(短期集中治療を行っている時は難しいかもしれないが、)今回の入院を伴走してくれた弟は、常々「医者は薬を使い過ぎ」と言っている。

リハビリテーションは、かなり早い時期にゆっくりしたペースで開始され、ダメージを受けた体の部分の機能回復、筋力低下の改善、退院後の生活様式再編に向けての訓練が行われる。

4. 素晴らしい看護師チームのケア
今回私は、半年前に改築されたばかりの高知赤十字病院に入院した。周りの環境(特に自然)、施設、インテリアが素晴らしく、まるでホテルのようだった。

施設が良いと中で働く人々の質も高くなるのだろうか。皆すこぶる清潔で、キビキビと働く姿が実に美しい。20代、30代の若者の白いユニフーム姿は眩いほど。入院当初目に焼き付いたのは皆揃っての真っ白い靴。思わず感動を口に出してしまった。

彼らの仕事ぶりは丁寧、行き届いていて、勿体ないくらいだ。夜中でもその都度ベッドの横にある簡易トイレにアテンドしてくれるし、下の世話を含め、体を常に清潔に保ってくれる。優しい声がけも有難く、患者一人ひとりに対するケアは見事なものである。

5. 手厚いサービスを支えるマンパワーと経済力
このような高度で心のこもった「システム」を支えるマネジメント、豊富なマンパワー、そして経済力は大変なものに違いないが、果たしてこれからの日本はこのような医療システムを継続・維持していけるのだろうか。一体どれ程の費用がかかっているのか、退院時の請求書に注目している。私は個人負担2割で済むが、国の負担を考えなければならない。

6. 退院後の課題―家族を巻き込む
入院中は過保護な位、手厚いケアを受けるが、退院の日は意外に突然やってくる。外界の気温への適応、薬の管理、食事や買物など身の回りのことを自立してやっていかなければならない。退院後は入院中とのギャップが大きい。ギャップの埋め方、つなぎ方に関してはどうしても家族(独り身は友人など)の協力が必要だ。

頻繁に入れ替わった私の病室の方は80代、90代が多かったが、彼女らは病気が完治したわけではなく、一応落ち着いたということで退院を余儀なくされる。家に戻れる人ばかりではなく、転院(元の病院に戻るケースも多い)して、そのまま寝たきりになる人も多いようだ。

終末のシナリオが必要になってくる。最早高齢化した本人だけの力ではどうにもならない。家族の対応が求められる。高齢者の医療はこれからどうなっていくのか。やがて私自身もこの問題と向き合わなければならなくなるだろう。

明日退院する。この1ヶ月,実に多くの方々にお世話になった。現在の日本の医療制度の下、1ヶ月間大変恵まれた入院生活を送ることが出来たことに心から感謝して筆を置く。(2019.12.15)