とうとうアフガン攻撃が始まった。私は8日の朝、母からのメールでそのことを知った。米国の軍事行動が「威嚇」で終わってくれれば・・・という、それまでの淡い望みは一瞬にして霧散してしまった。
 今や世界の目は、政治・経済・文化の「最先端」の地、ニューヨークやワシントンから、一転して地球上で最も貧しく、遅れている荒廃の地、アフガンへと否応なしに向けられている。同じ人類でありながら、これ以上は考えられないというコントラストを浮き彫りにしながら、世界秩序は大きく、激しく、根底から揺さぶられていて、おののきを禁じ得ない。

 各国の動きを固唾を飲んで見守っている。

 マレーシアはイスラーム国家であるが、今のところ冷静に対応しているように思える。パキスタンやインドネシアのような大きなデモや暴動は起きていない。これまでもそうであったように、この国の国民は emotional intelligence (感情をコントロールする聡明さ)を持っているし、政府の方もしっかりと治安をコントロールしている(賛否両論があるISA[国内治安維持法]が現在も存続している)。

 さて、米英のアフガン空爆に対し、マハティール首相はどう言っているのか。以下、8日の国会ロビーでのインタビューの要点をお伝えする。

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マハティール首相:攻撃は何の解決にもならない
(2001年10月9日、New Staits Times)

 「マレーシアは米国と英国のアフガンに対する攻撃に賛成できない。この件に関しては、我々は何もしないし、どちらの味方もしない」

 「テロリストたちはアフガンに集中しているのではなく、世界各地にも存在しているのだから、(アフガンへの)攻撃は何の解決にもならない」

 「我々は、テロリストたちがなぜあのような暴力に訴えたのか、まずその原因を解明する努力がなされるべきだ、との立場をとる」

 「我々が見る限り、彼ら(米国と英国)は彼らがテロリストだと目する者たちを攻撃しているのであって、ムスリムを攻撃しているのではない。もし、ムスリムが対象であれば、世界中のムスリムを攻撃しなければならないことになる」

 「(オサマ・ビン・ラディンとアルカエダが9月11日の世界貿易センターとペンタゴンの襲撃に関与したとするレポートについては)自分はまだ見ていないが、サイド・ハミッド外相が目を通しており、証拠はあると言っているので、そのように認識している」

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 上記のようなマレーシア政府の公式な見解とは別に、タリバン政権下のアフガン民衆の窮状がマレー語紙などでも紹介されているのが目を引く。マレーシア駐在のアフガニスタン大使(北部同盟代表)も、しばしばテレビのニュースや座談会に姿を見せ、タリバンの下で民衆が苦しんでいる現状を訴えるとともに、マレーシアからのモラル・サポートが必要だと述べている。

 今日も「アフガン大使:戦争はテロリストに対するものであって、ムスリムに対するものではない」(New Straits Times) と題して、同氏の発言が紹介された。

 「アフガン攻撃はテロリストに対して行なわれているもので、ムスリムやイスラームに対するものではない。米英等による攻撃は『救助』のためのものであることをムスリム同胞に理解してもらいたい。アフガン人はテロリストたちやタリバンに十分に苦しめられてきており、今や『平和』を必要としている。(略) アフガニの人々は『戦争』の前から苦しんでいるのだ」

 目下カタールのドーハで50数カ国が参加してOIC(イスラーム諸国会議機構)外相会議が開催されている。これからの世界はアフガンから更に中東へ、そしてイスラーム地域全体へと目を向けることを余儀なくされるだろう。それは遅すぎたが、これからの世界秩序を考える上での基本作業とも言えることだ。