穀雨(弥生11日)





 前回のコラムでは春の楽しい様子をお伝えしたが、実はあの時、私は大きな問題を抱えていた。遠足の数日前にノートパソコンがダウンしてしまったのだ。原因は何とキーボードにワインをこぼしてしまったことだ。慌ててキーボードを逆さにして、水を切ったが、大切なノートパソコンが全く起動しなくなった。弟に助けを求めると「馬鹿だなあ。 電源を入れちゃダメだぞ! 1週間位置いて乾かさないと!」と。

 ドキドキ、ハラハラ、落ち着かない日々が続いた。

 中のデータがダメになったらどうしよう! 

メールのやりとり、大切にしていた原稿、名簿・・・全部無くなってしまう???
落ち着け! 断捨離を始めている私ではないか。もし、データが全部消えても、それは「別れ」の練習だ。あの世に持って行けるものは何もない。モノも思い出もすべてとお別れする日が近づいている。その予行練習をしていると考えれば、どんな試練とも向き合わなければならない! 覚悟せよ!! 期待と諦めの半々だった。

 1週間過ぎて、私は恐る恐る弟に聞いた。「もう、電源入れてもいい?」
「ああ、いいよ」と言って、彼はパソコンを「診て」くれた。わけのわからない変な画面が出る...。彼は何やら、いろいろ試してみてくれた。数時間後、突然、いつもの画面が出た!「奇跡だね」と弟は誇らしげに言った。

 翌日、うきうきしてパソコンを開けた。ところが、えっ? またダウン? 私は再び、弟にSOS。また数時間、試行錯誤してくれたが、「やっぱり、これ、ダメだよ・・・」とギブアップ。

 次の策で、私はノートパソコンを抱えて、電器の専門店に駆け込んだ。店員はパソコンを裏返してチェックし、「この機種はもう古いので、サービスは終わっています」と無表情で言う。確かにこのパソコンは2012年12月に購入したもので、十年以上経っている。
「じゃ、どうすればいいんですか! 本社に送って調べてもらうことはできませんか?」 私は必至で食い下がった。
「・・・すみません。本社でももうお取り扱いはしていません」と冷たいお言葉。

 もうダメか・・・。

そうだ! 友人のSさんに頼んでみよう。Sさんに電話をすると、彼は夕方飛んで来てくれた。

 実は、私の机の上には弟から譲り受けたばかりの、画面がノートパソコンの2倍以上ある大きなパソコンが載っていた。 パソコンを変えるつもりだったが、自分だけでは解決できない大仕事で、ぐずぐずしていた。Sさんはネジで古いパソコンの中を開けて調べたり、新しいパソコンを起動させたり、更にはスマホも駆使して、数時間、格闘してくれた。深夜近くになって、新しいパソコンが見事に使えるようになった。バンザーイ!! ありがとう!!

 翌日も彼は来てくれ、残りのデータを古いパソコンから「輸出」し、新しいパソコンに「輸入」してくれた。古いパソコンのデータは空っぽになった。一抹の淋しさがよぎった。 古いパソコンよ、お疲れ様。さようなら・・・。これを機会にデータの大掃除/整理も出来、若葉マークの私のデジタル環境はスッキリと整った。そして、何よりもホームページへの投稿作業が「目に優しい」大きな画面で出来るようになったことは前進だ。

 「災い転じて福と為す」とはこのこと。春の宵、私はワインを片手に安堵感と嬉しさに酔いしれた。