弟武澄からe-mailの紅葉便りが届いた。今年は、古武士のような静かなイチョウの木の「黄色」より、燃えさかる紅葉の「赤」がしきりと思い出されるのはなぜだろうか。
 桜の花吹雪には「潔さ」が感じられるが、散る木の葉の美しさには「生」を終える前の「命」の激しさ、懸命さ、切なさが感じられる。日本の秋の美しさにはそのような、命あるものがエネルギーをふりしぼった時の「気迫」「輝き」がある。

 マレーシアの自然にそのような「激しさ」を感じたことがあるだろうか、と運転をしながら考えていると、突然大粒の雨が車のフロント・グラスを叩き始めた。ほとんど前触れもなくやってくる熱帯のスコール!その荒々しさに、このおだやかな南国の風土にも「激しさ」が秘められていることを知る。

 一瞬のうちに、天の激情にふれた地上の生き物は唯ただその威力に圧倒されるばかり。ウィンドーを伝って滝のように流れる水をワイパーが必死でかきわけても、前後左右にいる車も見えなくなるほどだ。ハイウェーを走っている時は車を止めるわけにも行かず、生きた心地がしない。呪文のようにコーランを唱え、ハンドルにしがみついて、天の怒りが治まるのを待つしかない。

 時には2、30分のうちに道路が大洪水となり、赤茶けた土と混じってテェータリッ(ミルク・ティー)色の川と化することもある。町の中心部では交通が渋滞し、村では高床式の家さえも水浸しとなって、水害を被ることもある。

 雨の季節は西マレーシアと東マレーシア、半島部の西マレーシアでも西海岸と東海岸では異なるし、近年は気候も不順になってきているが、クアラルンプールでは10月から12月頃が雨季である。今月はほとんど毎日、夕方になるとスコールがやってくる。自然の激しさ思い知らされる時でもあるが、雨はまたこの熱帯の地に「涼」と「恵み」をも、もたらしてくれる。

 先日、日本から来た知人を交えて数人で夕食を共にした。場所はKLタワーやツインタワービルなどが聳えるクアラルンプールのどまんなかにある「客家」レストラン。手頃な値段で、屋外で名物の「スチーム・ボート」(鍋料理)が食べられ、外国人がよく行く店である。

 はじめは夜風や扇風機の生暖かい風にあたって前菜をつまんでいたのだが、鍋料理の準備ができた頃、突然ガラガラと大きな音を立てて簡易屋根が頭上に伸びて来た。すると、間もなく大雨が降り出し、そのトタンの屋根を騒々しく打ち鳴らし始めた。私たちは話しを中断し、粉末のような水しぶきを浴びながら、目の前の鍋をつついて、食べることに専念した。スコールとスチーム・ボート、南国マレーシアならではの風物詩である。

 外国人に日本の「秋」を勧めるなら、マレーシアを訪れる方には是非この「スコール」を体験していただきたいと思う。

 食事が終わって帰る頃には雨はすっかり上がっていて、店を出ると、さわやかな夜空にツインタワーやKLタワーが美しく輝いていた。日本から来た友人はすっかり御満悦の様子だった。