ルックイースト政策

 マレーシアは台湾と並んで、世界で最も親日的な国の1つである。世界のどこに首相が50回以上も日本を訪れたことのある国があるだろうか。今年10月に退任予定のマハティール首相は、1981年に首相就任と同時に「ルックイースト政策」(東方に学べ。日本や韓国の労働倫理を学び、国を発展させようという政策)を打ち出したが、 来日の度に日本の先端技術の現場を意欲的に視察するなど、自ら率先してその模範を示してきた。

 マハティール首相の後継者となるアブドゥラ副首相もまた「ルックイースト政策を継続する」と、先般来日の折(7月9日~13日)に明言した。その決意を立証するかの如く、一行は第2蔵相(第1蔵相は首相が兼任)、通産相、外務相らの他、スランゴール州やペナン州などの州首相を含む総勢200人から成る大型使節団だった。

世界最大の盆踊り大会

 マレーシアが親日的なのは、第1にこのような政府の明確な政策があるからである。しかし、それだけではない。マレーシアと日本は、民衆同士が切っても切れぬ深 い絆で結ばれているのである。その証しとして、私は毎年7月にジャパン・フェスティバル・イン・マレーシアの一環 としてクアラルンプールで実施される世界最大の盆踊り大会を挙げたい。今年で27回を迎える「Bon Odori」は、毎年約4万人が参加する。周辺の在留邦人は7,8千人しかいないので、大半はマレーシア人ということになる。日系企業に勤める者やその家族 ・友人、日本留学経験者、日本語学習者、その他ただ何となく日本に憧れてという人たち・・・。

 私はマレーシア滞在中に何度かこの一大イベントに参加したが、年輪のように年毎に大きくなっていく民衆の輪=和に、日マ交流の歴史の厚みと力強さを感じ、深い感動に包まれたものだ。はじめは在留邦人のノスタルジアとささやかな楽しみだった小さな集いが、今ではすっかり首都の季節の 風物詩として定着し、更にペナンやジョホール、イポーなどへと広がっている。こんな「いい話」をもっと多くの日本人に知ってもらいたいと思う。

Yosakoi Boleh!

 ところで、この「Bon Odori」に今年は私の郷里、高知のよさこい踊りが初出場する。昨年日本に帰国する前のことだった。元同僚で、マレーシア日本語協会の会長をしていたエドワード・リーさんから、よさこい踊りをマレーシアに呼べないかという相談があった。ちょうど弟たちと「よさこい」をマレーシアの「Bon Odori」に「輸出」できないかという夢を語り合っていた時だったので、偶然に驚き、姉弟で出来るだけのことをしようということになった。

 よさこい踊りについて解説を加えると、この踊りは高知市で戦後、商店街の振興策として始まったイベントである。田んぼのスズメよけに使っていた 「鳴子」を両手に「よっちょれよ、よっちょれよ」と掛け声をかけながら踊る「よさこい」は賑やかな夏祭りとして県内で人気を集めるようになったが、十年前、北海道の学生がこの祭りを「Yosakoi ソーラン祭り」として、札幌に導入したことから全国的に有名になり、今では東京・原宿の「スーパーよさこい」など、国内百ヵ所以上で踊られている。鳴子を使用することとよさこい節の一節を音楽に取り入れること以外は一切自由。 正調あり、サンバあり、ロックやラップ、何でもありのよさこいは「創作」を重視し、「進化する祭り」 とも言われている。

 さて、話を元に戻すと、昨年は弟が高知の「よさこい国際交流隊」の主力メンバー15人を引率してクアラルンプールに行き、現地のマレーシア人と合流してサンウェイ・ピラミッド・ショピングセンターで踊るという形で話が実現した。名づけて 「Yosakoi Boleh!」。マレーシアのスローガン「Malaysia Boleh!」をもじったものだが、意訳すると「いいぞ!よさこい」ぐらいになるだろうか。日本側もマレーシア側も参加者は大いに楽しんだようである。

Bon Odori Boleh!

 昨年が前哨戦だとすると、今年は本番。いよいよ「 Bon Odori」出場の夢が実現する。これには盆踊り大会の主催者であるクアラルンプール日本人会事務局に勤める、在マレーシア20年以上の高知出身の松村寿美さんの尽力が大きい。今年はSARSの問題もあり、残念ながら日本からは数名しか行かないが、何と現地では約100名のマレーシアの若者が高知から送られたビデオを見ながら、エドワード・リーさんの指導の下で、5月から毎週末練習を重ねてこの日に備えている。

 先程弟から明るく元気な電話があった。

「今、成田だけど、行ってきまーす!」

私は行けないけれど、姉が灯した日マ交流の火を、弟が灯しつづけてくれるのは何とも嬉しいことだ。熱い思いで、東京から声援を送ります。

 7月19日 Yosakoi Boleh! Bon Odori Boleh!

(7月17日記、マレーシア・タイムズ8月号掲載)