さくら葬

 固く蕾を閉ざしていた桜が、4月に入ると一挙に開き春が訪れた。あれほどむごい災害をもたらした自然が、一方でこのような美しい花を咲かせるのだ。

 東日本大震災の後、海外の大学や元留学生から届いた多くのお見舞いメールの中にこんな一文があった。

 「(香美市土佐山田町の)鏡野公園の桜は咲いていますか。先生に教わった『さまざまの事思ひ出す桜かな』を覚えていますよ」

 日本人の心である桜、日本語のリズムとしての俳句、俳聖芭蕉を知ってもらいたくて毎年、日本語初級クラスで教えている句だ。

 今年はすべての日本人がさまざまな思いで桜を眺めたに違いない。かなしみ、儚さ、無常。日本人独特の感情もあっただろう。通夜も葬儀もないまま一瞬にしてあの世に逝ってしまった何千何万の魂。日本中の桜を手向けて霊を慰めたい。

 桜よ、このかなしみを花吹雪とともに散らしておくれ。そして、また新たな命をこの世に授けてくれることを約束してほしい。

 早春賦、故郷,おぼろ月夜、浜千鳥、海、赤とんぼ、もみじなど日本の四季をうたった美しいメロディーを口ずさもう。

今日は大震災で亡くなった方々の月命日である。合掌。  (凛)