今年の成人の日は11年ぶりに日本で迎えた。1月15日ではなく、「1月の第2月曜日」というのが、やはり妙な感じだった。
 翌日関空行きの機中で開いた朝日新聞のトップページには、晴れ着姿の新成人と握手を交わす橋本高知県知事の写真が載っていた。昨年の成人式で、ヤジを飛ばした新成人に向かって「出て行けー!」と一喝したエピソードが有名になったからだろう。我が故郷もこの頃は妙なことで有名になるものである。

 今年は「荒れる」成人式に対応するため、各地の自治体では警備を強化するとともに、式典を簡素化したり、イベント性を強調したりと「工夫を凝らした」そうだが、ニュースを見たり聞いたりしていて、何か腑に落ちなかった。平和なことはいいことだが、日本は「新しい時代の…」と称してヤングに迎合しすぎではないのか。成人の日が意味する本来の「通過儀礼的役割」をもう一度見直すべきではないのか。

 「日本って、どこかおかしい」と思いながら、マレーシアに戻ると、「伝統」を色濃く残したヒンドゥーのポンガル祭、タイプーサム、そしてチャイニーズ・ニューイアが待ち受けていた。

 因みにマレーシアには「成人の日」はないが、21歳になると選挙権が得られる。また通過儀礼として、ムスリムの少年時の「割礼」、そして一部インド・コミュニティーでは「初潮の祝い」などがある。

 今日は「祝日」と「祭り」を考える「太陽暦と太陰暦」を再掲したい。

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   一時帰国中、「あれー?」と驚いたことがある。10月10日の「体育の日」が10月9日になっていたことである。9日は月曜日。どうやら週末と繋げて連休にするための(?)、政府の「特別な計らい」のようだ。

 そう言えば、今年から「成人の日」も1月15日ではなくなった。1月の第2月曜日に変わっていた。今年は1月10日がその日に当っていたが、「これじゃ、お正月休みが延びたようなものだ。さしもの働きバチ日本人も随分のんびりしてきたんだなぁ」と苦笑した。

 その時も結構驚いたのだが、今回はそれを通り越して、「許せない!」と一人憤慨した。日本人は「便利さ」「快適さ」に走り、民族文化の精髄である暦をなし崩しにしようとしているのではないか、と。

 マレーシアでも、多くの祝祭日が年によって変わる。しかし、それは日本の場合とは全く異なり、畏敬すべき大自然の法則(太陰暦)に従うからであって、今回の日本の措置のように人間の都合に合せて勝手に変えているのではない(もっとも「成人の日」も「体育の日」も、もともとあまり根拠のない日なのかもしれないが)。万国共通と思われている太陽暦はマレーシアでは相対的なものであり、各民族、各宗教はそれぞれ生きる羅針盤としての「もう一つの暦」を持っているのだ。

以下、2000年のマレーシアと日本の祝日を比較してみよう。

日本

元旦 1月 1日
成人の日 *1月10日
建国記念日 2月11日
春分の日 *3月20日
緑の日 4月29日
憲法記念日 5月 3日
国民の休日 5月 4日
子供の日 5月 5日
海の日 7月20日
敬老の日 9月15日
秋分の日 *9月23日
体育の日 *10月 9日
文化の日 11月 3日
勤労感謝の日 11月23日
天皇誕生日 12月23日

 

マレーシア
(クアラルンプールの場合)

ニューイアズ・デー 1月 1日
ハリラヤ・プアサ(断食明け) *1月8、9日
連邦直轄区記念日 2月 1日
中国正月 *2月5、6日
ハリラヤ・ハジ(巡礼祭) *3月16日
イスラーム正月 *4月 6日
メー・デー 5月 1日
ウィサック・デー(仏誕節) *5月18日
国王誕生日 *6月 3日
預言者モハマッド誕生日 *6月15日
独立記念日 8月31日
ディーパパリ(灯明祭) *10月26日
クリスマス 12月25日
ハリラヤ・プアサ *12月27日28日

(注)①マレーシアは州によって祝日が異なる。
  ②2000年はハリラヤ・プアサが2回ある。
  ③ *年により日が変わる。
 上記の比較からもわかるように、マレーシアの祝日はその大半が宗教もしくは民族の暦に依拠している。具体的には、イスラーム暦(ヒジュラ暦)、中国農暦、ヒンドゥー教暦、仏教暦、キリスト教暦であるが(東マレーシアへ行くと、更に少数民族の暦が加わる)、キリスト教暦を除き、何れも太陰暦(または太陰太陽暦)である。

 これらの祝祭日は、その民族またはその宗教の信者にとって、先人たちの足跡を振り返り、自らのアイデンティティーを再確認する精神性の高い、大切な日なのである。

 翻って現代日本の祝日を眺めた時、名前からして、それは何と国民性や歴史性のない無味乾燥なものなのだろう。まるで、ファースト・フードのメニューのような一覧表だ。国民全体がその日の意義を、自然、歴史、民族の文化(宗教)と結びつけて味得するようなものになっていない。  日本人に精神的な影響を与えているのは元旦と、強いて言えば、お彼岸ぐらいのものだろうか。あとはコマーシャリズムに乗ったり、一部で記念行事があったとしても、国民の大半にとってはレジャーを楽しんだり、家でゴロゴロする、単なる「休日」にしか過ぎないのではないだろうか。

 日本で太陽暦が採用されたのは1872年(明治5年)のことだそうだ。しかし、昭和22年の調査では「新暦、旧暦を併用して使っている人」が全国で44%もいたという。 太陰暦を完全に捨て去ったのは、やはり戦後のことかもしれない。そして、その頃から日本人は自然や父祖の歩みから切り離されて、どこか「おかしくなった」のかもしれない。

 来月に控えたイスラームのラマダーン(断食月)の始まりは肉眼による月の観測で決まる。また仏教国スリランカでは、毎月、満月の日が祝日だという。自然との共生を誓った何と美しい文化なのだろう。マレーシアでの生活は、この地球の広大な地域が太陰暦という月の文化に支配されていることを教えてくれた。

2000年10月28日