小雪
(※8日の立冬は投稿できませんでした)



 晩夏から初秋にかけて悲しい別れが続いた。

 その一人、中田昌志さん。ガーナとの架け橋となって力を尽くした方である。

 81歳だった中田昌志さんはこの夏、記録的な猛暑にも拘わらず、ガーナからの高校生19人の受入れプログラムに身魂を捧げていた。原宿スーパーよさこいに参加した後、一行をガーナに縁のある野口英世の生まれ故郷、福島県猪苗代に引率中、8月29日ホテルで息を引き取った。まさに「務めに励む、その道すがら」の旅立ちであった。

 和田製糖の役員を退任後、単身で帰郷され、「ガーナよさこい交流」事業を続けてこられた他、「森の中の高知駅」活動を主宰したり、「桂浜を守り育てる会」会報編集委員や高知市の観光ガイドなど、様々なボランティア活動をされていて、いつもリュックを背負って軽い足取りで町中を歩き回っておられた。弟を応援してくれていて、4年前も今回も選挙事務所によく顔を見せてくださった。今年の春に大腸がんの手術をされたが、病後の回復も順調で、とてもお元気そうだった。

 8月初め、中田さんお気に入りの焼き鳥屋さんで、弟の市議当選祝い、中田さんの快気祝い、そしてガーナよさこい交流事業の再開(コロナ禍で中断していた)を祝って、一杯やったばかりだった。カウンターの隣の籍に座った私はガーナ事業の苦労話(2018年、台風による関西国際空港水没のため、一行の帰国日程の変更を余儀なくされたハプニングなど)を改めて詳しく、しっかりとお聞きし、「素晴らしいお仕事をなさってきたのですね!今年もお体に気をつけて、元気に頑張って来てください!」とエールを送ったばかりだった。翌日中田さんから「昨日はありがとうございました。皆さまと一緒にいただくと、焼き鳥も一段と美味しかったです」とメールをもらった。桜色に染まった幸せそうなニコニコ顔が私の脳裏に刻まれた最後の中田さんのお姿である。

 中田さんらが立ち上げ、20年間続いてきた「ガーナよさこい交流」事業をご紹介しよう。
活動目的は「学生の国際交流を通じて視野の広い青年を育て、両国の発展と世界平和に寄与する」とあり、具体的にはガーナの高校生約20名を2週間余り日本研修旅行に招き、日本の高校生や訪問先との交流を行っている。欠かせないのはガーナの生徒たちが麻布中学・高等学校や土佐中学・高等学校などの生徒たちと「ロッテ・ガーナよさこい連」を結成し、猛練習を経て、「原宿表参道元氣祭スーパーよさこい」に出場することである。新型コロナウイルス感染症拡大で数年間中断したが、今年無事再開(17回目の実施)を果たした。
 
 2019年までの来日ガーナ高校生は344人、参加日本人生徒は数千人に及ぶ。この大事業はガーナ・チョコレートの株式会社ロッテを初め多くの個人・法人の寄付でまかなわれている(ガーナ・日本間の往復国際運賃はガーナ側参加者の負担)。

 事の始まりは、高知出身(土佐高卒)の弁護士、浅井和子駐ガーナ大使(当時)が中田さんら土佐高同窓生に呼びかけ、2002年にガーナの首都アクラで「よさこい踊り」を大成功させたことである。国際交流の芽が開き、翌年ガーナの名門校セント・ピーターズの高校生日本招聘へと繋がった。因みにガーナでの「よさこい踊り」は今も続いているそうだ。
 
 ところで、高知とガーナの交流において、忘れてはならないのはオウス(Ebeneza Oduro Owusu)ガーナ大学副総長兼学長である。同氏は前述のセント・ピーターズ高校、ガーナ大学を卒業の後、1989年に高知大学農学部に留学し、博士号を取得(学歴については要確認)、1996年より同大学の助教授も務めた。7年半の滞在中多くの高知市民と交流し、今でも時折来高し、おつき合いが続いている。

 帰国後、2016年に4万人の学生を有するガーナ大学の副総長に就任した。ガーナの大学副総長(総長は名誉職)は大統領に次ぐ国家のナンバー2だそうだが、これまで宗主国英国のケンブリッジ大学やオックスフォード大学出身者がほとんどで、名も知られていない日本の大学出身者が任命されたことはガーナ国民にとって全くの驚きだったという。同氏は2017年に旭日中綬章を受章している。

 私もオウス副総長には高知大学での講演会や叙勲祝賀会などで何回かお会いする機会があったが、次の言葉が忘れられない。

「ガーナにとって、独立後最も素晴らしいかったことは日本と交流・協力ができたことである」
「坂本龍馬の精神をアフリカに伝えたい!」
「大切な価値は、trust(信頼)、discipline(規律)、humbleness(謙虚さ)である」

 浅井大使がガーナに赴任して、人と人との交流の手立てを模索し、「踊り好きなガーナの人たちには故郷土佐のよさこいがびったり!!」と思いついた時、、オウス氏はガーナ大学の教員として協力を惜しまなかったにちがいない。詳しい話をいつか浅井大使に伺ってみようと思う。

 遠いガーナと高知/日本の交流は偶然が重なったこともあるが、志のある方々の善意の積み重ねの結果であることを改めて想う。高知はガーナと深い絆で結ばれていることを県民として忘れてはならない。

 ガーナとの交流に尽くし、いのちを燃焼仕切った中田さん、心より敬意を表し、ご冥福をお祈りいたします。


2023年8月 スペインの少女たちが中田さんにもらった「ガーナ&日本友好」の鳴子で踊りました
2018年原宿ス―パーよさこい 浅井和子元ガーナ大使(中央)やスリーエーネットワークの藤崎社長(右)らと共に応援


❤ガーナでの「よさこい踊り」から「ガーナ高校生の日本招聘」へ❤

ガーナからやって来たよさこい大使